Ⅱ.視察報告

2.「沖縄県森林資源研究センター」

(3)松くい虫の被害状況について

今回、「松くい虫防除研究」については同センター・生沢均企画管理班長より話と聞き、センター内の研究室で説明を受けた。

① 森林保護管理技術について
沖縄県内でも松くい虫の被害が広範囲に及んでおり、その対策は県として急務である。センターでは、松くい虫の被害の軽減や、突発的に発生するイヌマキのキオビエダシャク被害を未然に防止する技術開発を行っている。

県などはこれまで、被害木の伐採や薬剤散布で松くい虫の駆除と拡大防止に努めてきた。ピークの2003年から7年間で7万6千立方メートルを伐採した。伐採範囲は被害量に連動し、被害最大だった2003年の2万6,364立方メートルを境に、6年後の2009年は3,840県内の松くい虫被害の状況.jpg県内の松くい虫被害の状況立方メートルまで縮小しながら伐採を続けてきた。

県内の松くい虫被害は1979年度は500立方メートルだったが、徐々に増加。2001年度には前年度比57.4%増の2万8,800立方メートルになり、2003年度には4万4千立方メートルと最も被害が広がった。

同センターでは2007年度から本格的にマツノマダラカミキリの幼虫を県内松くい虫被害量の推移.jpg県内松くい虫被害量の推移捕食する天敵クロサワオオホソカタムシの増殖研究に着手。現在、個体数8万匹まで増殖させることに成功し、実用化に向け取り組んでいる。

国や県は松くい虫の根絶に向け、2011年度は国と県で合わせて約2億9千万円の予算を計上。被害木の伐採処理や薬剤を樹幹に注入するなどの防除対策を進めている。

② 松枯れの原因(島根県ホームページより引用)
松が枯れる原因としては、いくつか説があるが、激害的な松枯れの主な原因はマツノザイセンチュウである。

マツノザイセンチュウが松の体内に入ると、松の生体反応から水を吸い上げる働きが阻害され、枯れてしまう。松くい虫被害とは、マツノザイセンチュウが松の体内に入り水分の通導を阻害し、松を枯らしてしまうことを言う。

マツノザイセンチュウ.jpgマツノザイセンチュウマツノザイセンチュウは北アメリカ原産の線虫で、明治時代に品物を輸入する時に使われる梱包材と一緒に日本に入り込んだとされている。

体長は約1mm程度の小さな線虫だが、卵で生まれて親になるまで3〜5日しか必要とせず、メスは約100個の卵を生むため、松の体内で莫大に増殖する。

③ 寄生のメカニズムとサイクル
マツノザイセンチュウは自分で松から松へと移動できない。松の体内に潜入し松を枯らしたら、他の昆虫の力を借りて次の松に移動するしかない。このマツノザイセンチュウを運ぶ「運び屋」が、マツノマダラカミキリである。

そのメカニズムとサイクルは以下のとおり。

  1. 枯れた松の材の中で越冬したマツノマダラカミキリは、春から初夏にかけて蠕になり、羽化して成虫になる。
  2. 成虫したマツノマダラカミキリは松の表皮部分を食べる。そのときにマツノザイセンチュウが口からカミキリの体内に入り込む。
  3. そして、5月から7月頃にかけて、カミキリは健全な松から松へと飛びまわり、松の若枝の樹皮を食べはじめる。このとき、カミキリの体内に潜入していた線虫は、カミキリの食べた樹皮の傷口から松の材の中に侵入、急激な生理異変をもたらし、松を枯らしてしまう。
  4. そしてカミキリは、マツノザイセンチュウによって衰弱した松の木を探し出し、樹皮にかみ傷をつくり、そ排卵管を差し込んで卵を産みつける。
  5. 卵からふ化したカミキリの幼虫は、樹皮の下で柔らかい皮を食べながら成長し、夏の終わり頃から秋の間に成長した幼虫は、材に深く穴を開けその申で越冬する。そして、また最初のサイクル a. へとつながっていく。

カミキリの蛹と幼虫.jpgカミキリの蛹と幼虫


④ 松くい虫被害の診断方法
松くい虫被害の診断方法_1.jpg地域によって多少の差はあるが、通常8月から9月頃、葉が赤くなって枯れ始める。また、寒い地方では感染した翌年に枯れることがある。松くい虫被害にあった松の特徴には、次のようなものがあげられる。

ア) 松ヤニの流出が少なくなる。
松は、ヤニが多い木ですが、マツノザイセンチュウが潜入するとヤニの流出が少なくなります。春から秋の間に、ナイフで樹皮に傷をつけても、傷口からヤニの流出が少ないようであれば松くい虫被害木である。松くい虫被害の診断方法_2.jpg(左図参照)

イ) 古い葉から枯れる
松くい虫による松枯れは、先に古い葉(2〜3年目の葉)が、その後新しい葉(今年生えた葉)が色あせて、一部は垂れ下がり、短期間のうちにあざやかな赤褐色に変色する。

乾燥が原因で枯れるときは、新しい葉が先に灰褐色に変わるし、また、大気汚染(亜硫酸ガス)が原因で枯れるときは、新しい葉と古い葉が同時に赤褐色にかわるので、枯れ方を見れば枯損原因が分かる。(左図参照)

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