Ⅲ.視察報告:11月19日(火)

1.筑紫野市「福岡県農業総合試験場」(一部、県のHPより引用)

視察二日目、最初の視察先は筑紫野市「福岡県農業総合試験場」(略「農総試」)です。

(1) 「農総試」の概要

①「農総試」の概要
「農総試」は、筑紫野市大字吉木の山間にある県の施設で、約150haの広大な敷地に、管理部、研究企画部、食品流通部、土壌・環境部、病害虫部、農産部、野菜部、花き部、果樹部、家畜部、畜産環境部の11部からなる本場を置き、さらに県内農業の地域性と特定作目に対応するために4分場(豊前、筑後、八女、果樹苗木)が設けられています。

また、2003(平成15)年4月には知的財産戦略への取り組みとして「農産物知的財産権センター」を設置されています。

また、本場構内には「農業大学校」、「病害虫防除所」、「福岡県農業協同組合中央会教育センター」もあり、福岡県における農業の研究と教育の拠点となっています。

②沿革
県の農業に関する試験研究は、全国にさきがけて、1879(明治12)年7月、当時の那珂郡春吉村(現在の福岡市博多区東中洲)に「勧業試験場」が設立されたときに始まります。

その後、1939(昭和14)年、筑紫郡二日市町(現筑紫野市上古賀)に移転。1949(昭和24年「福岡県立農業試験場」と改称。

そして、地域農業の総合的な発展を図るための試験研究の強化を目的に、1981(昭和56)年6月、農業試験場、園芸試験場、種畜場および種鶏場の4場を統合して新たに「福岡県農業総合試験場」を、現在の筑紫野市吉木に設立しています。

(2) 「農総試」からのヒアリング

①「農総試」からの説明
今回の「農総試」の視察は、まず、本館・管理部の会議室で、場側から説明を受け、その後、現場視察しました。

「農総試」側からは、場長、副場長をはじめ、管理部長、各研究部長が出席頂き、「農総試」の現状、研究成果などを報告頂きました。

場長、副場長をはじめ、管理部長、各研究部長_1.jpg場長、副場長をはじめ、管理部長、各研究部長

場長、副場長をはじめ、管理部長、各研究部長_2.jpg

(3) 現場視察

①野菜部・施設野菜チーム「トマト栽培」

トマトの育成研究・新種開発と収益性の研究_1.jpgトマトの育成研究・新種開発と収益性の研究トマトの育成研究・新種開発と収益性の研究_2.jpgトマトの育成研究・新種開発と収益性の研究_3.jpg

最初に訪れたのは、野菜部「トマト栽培」の試験・研究ハウスです。

ここでは、収穫性の高いトマト(市場で買ってもらえるトマト)品種の育成とともに、坪(10a)あたりの収穫率と利益率が一番高い栽培方式を研究されています。

ただ単に、一株にトマトが沢山なればいいということではなく、美味しいトマトが連作できて、しかも病気にかからず、坪あたりの収穫率と利益率が高い栽培方法を農家にやってもらうというのが狙いです。

②野菜部・イチゴチーム「イチゴ栽培」
次に、「イチゴ栽培」の試験・研究ハウスを視察しました。

イチゴ栽培ハウス.jpgイチゴ栽培ハウス

苗付されたイチゴ.jpg苗付されたイチゴ

ハウスには、世界に冠たる「あまおう」の苗付けがされていました(9月に終わったところということでした)。

現在、イチゴチームでは、①イチゴ新品種の開発(育種目標:炭そ病に強く、花房が連続する)、②「あまおう」の厳寒期多収どり作型の開発、③「あまおう」における白熱電球代替電照技術の確立、が取り組まれていました。

いずれも、農家の方々の収益性向上につながるものであり、研究の成果が成功となることを願いたいものです。

③花き部・「菊栽培」
次に、花き部・「菊栽培」のハウスを視察しました。

花き部では、オリジナル品種の育成と栽培技術の確立に取り組まれています。具体的には、

  • 1)電照栽培用キク新品種の育成
    • ・電照栽培下で栽培できる、暑さに強い夏秋白輪ギクや、低温条件下でも栽培できる秋ギクの開発。
  • 2)育成したキク新品種の作型適応性の検討と栽培技術の確立
    • ・花き部で育成したキク新品種の栽培技術の確立。
  • 3)トルコギキョウの新品種の育成と栽培技術の確立
    • ・冬春出しに適した新品種を育成し、作型適応性の検討と生産技術の確立。
  • 以上に加え、
  • 4)キク「雪姫」の高品質安定生産技術の確立
    • ・ウイロイドフリー苗の育成技術。
    • ・わい化症状の原因の1つであるキクわい化ウイロイド(CSVd)の感染防止技術。
    • ・斑点症糖衣の生理障害対策を含めた栽培管理技術の確立。

    が主な仕事です。

今回、「農総試」が研究開発、市場に送り出した「雪姫」を見せてもらったのですが、雪の名が示す通り、輝くような純白の花弁が一つひとつ美しく、大輪の花となり、凛とした佇まいをした菊でした。福岡県が全国に誇る品種であるだけに、見事な菊でした。

花き部・「菊栽培」研究用のハウス_1.jpg花き部・「菊栽培」研究用のハウス

花き部・「菊栽培」研究用のハウス_2.jpg

しかし、この「雪姫」の栽培にはとてつもなく人手がかかり、市場に出す(咲かせる)までには、一輪、一輪、人の手で茎からでてくる枝花を切り取り、最後に一つの花だけを残して育て上げる必要があるということです。そして、それを何百本、何千本とやるわけですから、気の遠くなるような作業です。

(4) 感想

現在、福岡でも気候変動が激しくなり、年々温暖化が進むなか、農作物の品種や育成方法も変えていく必要があります。

そのため、「農総試」では日々、新品種の研究・開発、新品種の栽培方法の開発、病害虫対策、高収益化などに取り組まれています。

従来、米や麦の研究・開発から市場に出すまでには10年かかったそうですが、いまでは5年で市場に出している、出さなくては駄目だということでした。

したがって、研究員は短い研究期間で新品種の開発を行い、高収益の新品種を市場に出さなくてはならないという義務感と使命感をもち、仕事に励まれています。本当に敬服した次第です。

ただし、気がかりな点もありました。それは「農総試」の研究についてではなく、こうして「農総試」の研究員や農家の方々が一生懸命に開発し、育て上げた農産物でも、市場での価格は決して高くはなく、農家の収入は厳しいものがあると思いました。

それは、あれだけ人の手がかけられた「雪姫」ですが、市場での価格は一本100円ということです。それが花屋さんに並んだときには300円になっているのですが、菊農家が手にするのは一本、100円ということです。菊農家は「雪姫」だけをつくっているわけではないのですが、それにしても一本の単価は安いと思いました。

これは、菊だけでなく、全ての農畜産物にも同様なことが言えるのではないでしょうか。 
このままでは農畜産物の担い手がいない手がいなくなるのではないか。日本の将来の食料自給率に不安を覚えてなりませんでした。

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